ベトナム人ディアスポラの現在:芸術やアクティビズムを通して経験を発信する人たち

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ベトナム人ディアスポラの現在:芸術やアクティビズムを通して経験を発信する人たち

2026/03/30(月)

(前回からのつづき)


 ベトナムからの新しい移民として注目されているのが、ベトナムとの二国間協定に基づいてドイツへやってくる職業訓練生たちです。その年齢層はさまざまですが、多くが高校を卒業したばかりの若い人たちです。彼ら彼女らが多く働いている業種は、飲食業、そして介護・看護です。近年、その数が増えるにつれて、ベトナム人職業訓練生たちの人権侵害が問題視されています。ドイツ滞在中に、このような悲しい事例について知りました。首都ベルリンから電車で1時間半ほど南西に下った、チューリンゲン州の介護事業所にて、ベトナム人の職業訓練生たち40名に対して、賃金未払いや不適切な住居等の人権侵害がありました。この職業訓練生たちは、職場に抗議をしましたが、ベトナムへ帰国させることを脅され、一部の人は賃金未払いの状況のままで何ヶ月も働き続けてたそうです。また、職業訓練生のために用意されていた住まいは、職場の駐車場に設置された空調やトイレ、バスルームのないコンテナでした。抗議をした一部の人は、強制退去を迫られ、住まいを失ったそうです。現在は、このベトナム人職業訓練生の多くは別の職業実習先を無事見つけることができたようです。そして今、その多くが、法的措置に踏み出していました。法廷審問において、ベトナム語の通訳もないなか、ドイツの法律を理解して法廷で闘うのはとても困難なことです。

  私は、その法的措置を支援するために活動している団体について、インスタグラムの投稿を見て知り、その団体のイベントに参加してきました。会場へ行くと、小さなスペースのなかは、ベトナム人ディアスポラと思われる若者たちを中心に多くの人で賑わっていました。ベトナム料理を食べられるスペースもありました。また、参加者からは、職業実習先を相手に裁判をおこしている職業実習生たちに向けての応援のメッセージを募っていました。代表からの話では、自分たちはこの職業訓練生たちとコンタクトをとって話を聞いており、近々ある裁判も傍聴しにいく予定であるとのことでした。この団体の訴えを一部抜粋すると次のとおりです。”These young people are not ‘cheap labour’! They keep the system running. They are people with dreams and resilience.”つまり、「この若者たちは、『安い労働力』ではない!彼ら彼女らは(高齢者介護の)体制を支えている。彼ら彼女らは夢を持っているし、レジリエンス(困難に立ち上がり乗り越える力)を持っている。」という内容でした。


 先日、ベトナム移民の歴史についての特別展示をハンブルク歴史博物館へ見に行ってきました。そこで手にとった資料では、2010年代から、ベトナム人移民の2世を中心に、ベトナム人ディアスポラにより、自分たちの親や自分たちの経験を振り返り、デジタルメディア、ジャーナリズム、芸術、音楽などさまざまな形でドイツ社会に発信する動きが活発になったと書かれていました。その展示に関わった方々を見ても、ベトナム人ディアスポラの人たちの名前が並んでいました。

 この展示の他にも、ベトナム人ディアスポラのアーティストたちが、2世としてドイツで育つとはどのような経験であったか、表現した作品の展示会に行く機会もありました。ベトナム人ディアスポラの方々が当事者として色々な形で自らの経験を発信し、アクティビズムや芸術に繋げているところに感銘を受けました。

 

 ドイツでこのような活動を見て感じたのは、ベトナム人ディアスポラの力強さです。移民政策も整備されておらず、在留資格も不安定なベトナム人移民の人たちは、差別に遭いながらドイツ社会で苦労をして生活を築き上げてきて、自分たちの権利のために闘ってきました。その中で、市民団体も生まれ、少しずつ周りの人たちやドイツ社会全体が変わってきました。それが、ベトナム人ディアスポラの人たちが自分たちの経験について声を上げられるようになったり、ベトナム人職業訓練生たちなど新しくドイツへ来る人たちを支援したりするような風土を醸成してきたのだと思います。ドイツは、日本よりも移民受け入れの歴史が長い国です。そんなドイツでも、働き手不足が深刻化して労働者の受け入れが拡大するなか、やってくる人を「安い労働力」として消費してしまう事態も未だに起こっており、課題が多く残るなかで多文化共生を模索しています。その意味では日本と共通点が多いのではないかとも思いました。

 

 日本でも、日系ブラジル人の人たちを受け入れた際には、十分な支援が整備されていなく、その人たちは日本社会で大変な思いをしました。他方で、トレイディングケアの多文化共生推進事業に関わっていると、日系ブラジル人の方々をはじめとして、すでに日本で暮らしてきた「先輩」の方々が、インドネシアからの技能実習生やその他まだ日本へ来たばかりの人たちと活発に交流をしている光景をいつも見ます。ある方は、「自分が来た時には、日本社会に馴染むための支援が全然なかった。自分はその苦労や重要性がわかるからこそ力になりたい。」という想いを語ってくださいました。外国から日本へやってきた人たちがお互いを支え合う。地域の人たちも一緒になってサポートする。ドイツで出会ったベトナム人ディアスポラの活動と、トレイディングケアの多文化共生推進事業が自然と重なって見えました。


<参考>

Coalition for Pluralistic Public Discourse, Dynamic Memory Lab Vietnamese-German Migration Hi | Stories (展示に関する資料)

※写真は、同展示スペースにて撮影したもの。ベトナムからボートに乗って逃れた難民、いわゆる「ボートピープル」など、ベトナムからドイツへの人々の移住の歴史について展示があった。

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